魔女とは


 魔女という言葉には今でいう差別語的なイメージがある。欧米ではウィッチという言葉よりペイガン(異教徒 Pagan)という言葉のほうが好まれはじめている。本来、キリスト教徒がそれ以外の宗教の信者を侮蔑的に呼んだ言葉だが、現在の欧米ではむしろ誇りを持って自らをペイガンであると主張する人が少なくない。その中核を作り上げたのは実は1950年代からイギリスを中心に起こり初めたウィッカ運動の後継者達だった。

 イギリスで魔女禁止令の法律が削除されたのはたった半世紀ほど前の1951年の事。その三年後、1954年に一冊の本が出版されたことがきっかけになってウィッカ運動が興る。その一冊の本とは、魔女の乳と呼ばれるジェラルド・ブロッリー・ガードナーが書いた『今日の魔女術(Witchcraft Today)』だった。民俗学者のマーガレット・マレーが序文を書いたこの本は、マレーの学説と19世紀に発表された魔女研究を大幅に取り入れた魔女術を初めて本格的に紹介したもの。マレーやガードナーの説とは、「魔女達はひそかに古代の女神や有角神の信仰を守り育ててきた」というもので、この本で紹介された魔女の宗教を現代で復活させようとしたのがウィッカ運動だ。

 現代のウィッチ達はこうしてペイガンである事を自ら選んだ。もちろん古代と現代ではさまざまな違いがあるので、現代のペイガンはネオ・ペイガンと呼ばれている。つまりウィッチというのはペイガンの一部で、その本質は古代の人々が信じていたような自然の神々を信じる宗教者なのだということだ。

 まじないや占いとはそもそも何であろうか。心理学的なことはおいて、一般に伝わるのは大抵が迷信の部類、ほとんど根拠のない信仰だ。そのマイナス面ばかりが強調されがちだが少しはプラスの面もある。そのプラスの部分とは、悩みを持った人にある種の自信を与え、行動力を蘇らせるという側面だ。迷信である以上根本的な問題解決にはならないが、しかし自分でどうにもならなくなった人には自信を持つきっかけになる人生相談の側面を持っている。

 古来、人の世を渡り歩く宗教の伝道者は奇跡を旗印にお守りを売り歩いたこれはそれにより自身の宗教を宣伝するためだったと思う。その意味では、現在の魔女のまじないや占いもその異種なのだと言える。ただ、現代のタリズマン(お守り)が信仰の象徴と迷信に依存しているのに対し、古い時代の伝統を伝える魔女の魔法の仲には実用的かつ科学的に意味のある技術も少なくない。

 魔女の魔法の中でもっとも基本的でポピュラーな技はなんといっても薬草の知識である。現代でもハーブの知識は役に立つと人気がある。その科学的効果も漢方薬の研究とともに証明されている。漢方薬などの植物の効能は、東洋では主として道教や仏教とともに伝わった。仏教では食だけでなく香の効能も伝えられている。同じ知恵が西洋の民間伝承では魔女の知恵として伝わっていたのだ。

 民話によく出る魔女の大釜は、実際には農民が薬草などを煮るための道具でもあったわけだが、こうした知識自体がキリスト教からは異端視された。さらに当時の植物の俗名がやけに生々しいものだったので、魔女の持つ薬草知識もまがまがしく解釈されたという説もある。

 次にポピュラーな知識が地学の知識だ。つまり鉱物や土壌の質の良し悪しから、地下水の発見といった類の知識。現代では日と探しまでやってのけるダウンジングなどは、元々は地下水の発見のために開発された方法だった。いわいるパワーストーンなども、鉱物の知識を一部流用したまじないというわけだ。植物にしろ鉱物にしろ、魔女の知識には一つの特徴があることが分かる。

 その特徴とは古代ヨーロッパの産業と深い結びつきがあるという事だ。ハーブ類の知識はオリーブや各種香辛料、荒涼などの素材となる植物の栽培と関係があるし、鉱物の知識は武器や道具、さらに装身具の原料を提供し、技術の発達をうながすもとにもなる。

 こうした大地の恵みとともに発達した知識のほかに、気象や天文に関する知識も同時に発達する。季節の移り変わりに伴う日照時間や降水量の変化を記録していくことは暦を生み出し、さらに暦は天文の観測とも深くつながっていく。この天文の観測から派生的に作られたのが占星術である。

 火の技術もこうした知識に加えられる。植物を煮たり焼いたりして薬を作る。あるいは石を溶かして別の形を作り出していく。この火の技術は中世の錬金術を生み出すもととなり、現代の科学へとつながることになる。

 古代ヨーロッパでこうした知識を体系的に伝えていたのはケルト民族の賢者であったドルイド僧たちだったと言われる。魔女の多くは彼らドルイド僧がヨーロッパ各地に広く居住していたケルト人たちの間を旅して歩き、部族の人々にさまざまな技術や知識を伝えたと言われる。こうした説からうかがい知れる賢者達の知識は原始的な科学で、それを庶民の生活に応用するようになった魔女の知恵はやがて人生相談に近い内容に変わっていき、知識は単なる象徴になってしまった。つまり恋人を得るための秘薬や、地下水をえるためのダウジングという知識も時代を経るにしたがって相性占いや運勢占いになったというわけだ。

 こういった即物的な知識を学ぶことだけが魔女の必修科目ではな。一番大事なのはこれらの知識を得る過程で自然と交流していくこと。自然との交流といってもそれは直接手を触れることで体験するだけではないということに、現代の魔女の特徴がある。自然との交流は、魔女にとって神々との対話にあたる。現代人が自然とかかわるのは難しいので瞑想を使う方法が採用された。瞑想自体は現代人のストレス解消の方法のひとつとしてさまざまなメディアでとりあげられている。宗教では古くから仏教の修行の一つであったし、現代ではそれを応用してスポーツや演劇のイメージトレーニングといった形で取り入れられている。

 魔女の瞑想もこうしたものとあまり変わらない。他ジャンルの瞑想と比べて大きな特徴となるのは、心に思い浮かべるイメージに一種の皮膚感覚が伴うことだろう。実際の方法としては、まず規則正しい呼吸による心身のリラックスから入っていく。西洋では、儀式魔術で用いられる四拍呼吸が主として応用されている。これは四拍で息を吐き、二拍で止め、再び四拍で息を吸い、二拍でとめるという方法だ。呼吸を自分でコントロールできるようになるまで繰り返し練習し、全身の筋肉の緊張と弛緩を同時に習得する。すでにスポーツ、声楽、演劇などの呼吸法をマスターしている人はそれで構わない。

 魔女のカブンでは共同作業により、共同のイマジネーションとして神との一体感を得る。呼吸法によるリラックスで得られたものが、つまりこの神との一体感という事になる。魔女にとって神とはもちろん自然のことで、自然とは具体的な自然物を指す場合もあるが、突き詰めてゆえば宇宙的法則を知識としてではなく皮膚感覚として体感することだ。個人で行う場合はこの瞑想にはそれほど時間はかからない。しかし集団で行う場合はそれなりの手順を必要とする。参加する人々の呼吸を合わせて、共同のヴィジョンを作り上げるために、いろいろな演出効果を考えて儀式化する。


○魔女とはなにか(まとめ)

・自然を愛し自然の摂理こそが神だと思っている。
・季節の移り変わりや天体の運行に敏感であろうとする。その節目に祝祭としての儀式を行う。
・妖精や妖怪などのファンタジーを大事にする。科学的であろうとする反面で、精神的な豊かさをtらも唐とする。人間は人間を作り出した自然のすべてをまだ知っているわけではないので、どんな不思議なことが起こっても否定しない。