スペルとチャント


 エコエコ アザラク、エコエコ ゾメラク という呪文が有名だが、元となったチャントは

 Eko Eko AZarak   Eko Eko Zomelak
 Zod ru koze zod ru koo  Zod ru goze goo ru moo
 Eeo Eeo hoo hoo!

 というもので、これはドリーン・ヴァリアンテがファーラー夫妻に語った証言によるもの。ヴァリアンテもファーラーも、このチャントの意味は不明としている。彼らは「アザラク」も「ゾメラク」もおそらく神の名前ではないか、と推測しているようだ。また、最新の別の研究家の中には、バスク地方の呪文であるという人もいる。

 ついこの間まで、西洋魔女のブームはケルトだった。おそらくその次はバスクなのだろう。彼らは隠され、弾圧された民族が大好きで、自分たちのルーツをマイノリティな民族に求めようとする。ケルト民族にせよ、バスク民族にせよ、中世以後、徹底したキリスト教の洗礼を浴びてしまっている民族である事を、現代のロマン派の魔女は失念しているようだ。しかしバスク地方といえば現代は大部分がスペイン領。そして、スペインとは中世の初期にはアフリカの北部からジブラルタル海峡を越えて、イスラム教徒が進出していた土地でもある。それゆえ、スペン各地にはイスラム教の痕跡がたしかに残存している。

 さて、近代オカルティストの中に、イスラム教神秘主義にかぶれた人が約一名いた。ガードナーも、一時期その人の魔術結社に入団していた事がある。また、ガードナー流の儀式には、その人の考案した儀式が色濃く影響を与えている。その人、アレイスター・クロウリーは儀式魔術をやる人にとって重要な人物でも、魔女には比較的無関係な人。せいぜい、彼の作成した万物照応表やタロットカードの解説書やハードな儀式から、自分たちに使えそうなものを見つけるために彼の本を有難がるくらいの存在でしかない。

 その、彼が考案した儀式には、イスラム教神秘主義の影響がありありとうかがえる。クロウリーが狂熱状態で書いたとされる『法の書』がいかにマホメットの『コーラン』と通ずる精神で書かれたかがわかる。厳しい砂漠の風土が、マホメットが啓示を得たのとそっくりな精神状態に招いたのかもしれない。

 ともかく、エコエコアザラクを調べてみることにする。まず、Ekoから引いてみることにする。Ekoの発音は、スペイン語ではEcoとなる。つまり、エコー、響きやこだまの事だ。では、Azarakはどうだろう。これは、イスラム教にも関係のあるAzala、アッサラー。イスラム教の祈りの言葉だ。エコーエコーアッサラーは、響け響け、祈り。となる。では、ゾメラクはどうだろう。英語のZ音と同じ音は、スペイン語ではSとなる。つまりSomera、意味は「ちょっとした、わずかな」だ。つまり「響け響け、祈り。響け響け、かすかに」となる。後はいわゆる”ラップ”だろうか。チャントなので、謳い踊るときの調子を取る言葉ではないかと思う羊や牛やフクロウやその他の動物達の声をマネしたような響きで、いかにも魔女っぽい。



○アブラハダブラ

 ガードナー流が採用した「力の呪文」で、イニシエーションの呪句として紹介した。日本で有名なアブラカダブラはアラビア人の呪文だが、アブラハダブラのほうは、アレイスター・クロウリーが『法の書』で「<野獣>のこともとなるであろう」と言い、「諸々の言葉の結びは<言葉>たる<アブラハダブラ>である」と記している。

 「野獣」とは、全ての原始の力であり、本能であり、人間社会が作り出した一切の権威や権力や秩序を破壊させる「強力な力」を象徴させた言葉だ。魔女はこの「<野獣>の子供」に、自分たちを戒めている固定観念や旧態依然の社会通念から、自由になれ、解放せよという気持ちを託している。



○I O PAN

 「パンの賛歌」とも呼ばれる有名なもの。角を持つ森の神パンを讃え、生命と肉体と精神に力をみなぎらせる言葉で、これもまた、アレイスター・クロウリーの「パン賛歌」から採ったものと思われる。

 O IO PAN!   O IAO!
 O IO XX!(信仰する女神名)
 O IO XX!(信仰する男神名)



 IOはエオと発音する。IAOはエアオー。根底にあるスピリットはケルトの戦士の雄たけびで、マンサートとはまた違う戦いの勝利の余韻に酔いしれた瞬間が自分を放さない。原始の力の召喚にはふさわしい言葉のようだ。



○火の歌

 燃えろよ燃えろよ 炎よ燃えろ 火の粉を巻き上げ 天まで焦がせ
 燃えろよ燃えろよ 明るく熱く 光と熱との 基となる炎



 だれでも知ってるキャンプファイヤーの歌。この歌以上に燃え盛る炎を讃える歌があるだろうか。
小難しく古い外国の専門的な賛歌も、翻訳すればほとんど同じである。
神道の祝詞も、神々を褒めつくしてなんとかしようというものだ。
用途が合えば、世界中の詩、歌を引っ張ってきても別に構わない。



○水の詩

 目を閉じよ、同胞よ。 じっと思い出してくれ。
私達の生まれた場所を。

暗い木立の中に 暗い茂みの中に ほんのわずかな流れを見出せ
細い流れの斜面に沿って登れ 硬い地面の割れ目に 岩と岩の隙間に その源を探せ

湿った黒い大地から 冷たい岩の隙間から 勢いよく溯った幼いニンフたちが
幾人も幾人も集まっては 谷を走っていく 野を駆けていく

雨が降る 雨が降る 天からはてしなく降り続く 暗い雲の隙間から
尽きることなくもれ出る雨は 乾いた大地を潤し たちまちそこから
あふれ出し 山肌を洗い 岩壁をつたい 若いニンフたちを巻き込んで

急流となり 激しくのたうち やがてゆっくりと平野を蛇行する
そうして ほらご覧 あれが源 生命の源 ニンフたちは吸い込まれる
あの広大な潮へと 生命の源へと




○風の歌

 大寒 小寒
 山から小僧が飛んできた
 なんといって飛んできた
 寒いとて 飛んできた



 日本のわらべうた。○○おろしとか○○小僧とか、風を擬人化させて歌う文化は日本全国に見られる。
東西南北の風がそのまま季節を現すのは、ローマやギリシアなどの地中海沿岸諸国と同じ。
エアリアルやシルフと、言ってることは同じである。



○大地の歌

<参考>
・市販品「わが大地のうた」 笠木 透
・スティービーワンダーの「ファイヤ」

インドのリグ・ヴェーダなんかもそのまま使えるかもしれない。