里人の術


 敵国の里人(国民大衆)を忍者に用い、あるいは里人を利用して忍計(諜報、謀略)を行う術。楠木正成はこの里人の術を得意とした忍将で、楠木流奪口忍という伝書の内容はほとんどこの里人の術の応用を説いたものである。



○敵国の里人を忍者に用いる法

 敵国の中に忍者の組織を作り上げていく場合、その方法としては、まず敵の国民を第一に組織に引き入れることが一番目立たない、安全な方法である。政治の悪い国は、国民の大半が政府に不満と憎悪の念を持っている。政治のよい国でも国民がことごとく政府を敬愛しているといったケースは絶無で、一割や二割は政府に反心を持っている者がある。忍者はこの国政の虚をついて里人の術を行う。

まず、

 (1) 味方と血縁、婚縁のある者

 (2) 政府お呼び政府内の個人に対して、強い反感、恨みを抱いている者

 (3) 欲心(出世欲、物欲)の深い者等を調査して、様々な方便を回らして味方につけ、誓紙、人質を取ってその人間を組織作りの手がかりとする。そしてその人間を通じて場内に桂男を入れるとか、所々に穴丑を配置するとかして、暫時、組織を広げていくのである。一人の里人(真間)では一つの組織しか出来ないから、実際には複数の里人(真間)を並行して使う。その組織(里人)は、隔離分割して、一つの組織が発覚しても他の組織は残るように、始計術の四方髪の理を応用するのである。こうして敵国内にその里人を利用して数個の忍者組織を作り上げると、敵国の動きは居ながらにしてこれを知ることが出来、その情報も常に節を揃える術でチェックし、その真偽を吟味することができる。


○敵国の里人を仮間に用いる法

 これは、久ノ一の術の仮間と同様で、敵国の住民を、仮間に利用し、その者から大小さまざまな情報を聞き出して微兆の理を用いて、一つの傾向を組み立て、敵の企画を察する術で、この効用は非常に大きい。

 また不特定多数の敵の住民を通じて、デマを飛ばし、知らず知らずのうちに住民全体を謀略の手先に使うこともこの謀術の妙計である。これに利用する仮間は複雑多岐であるが、いずれも第一に利をもってこれに対し万全の手段として性を持ってこれをつなぐ事は、久ノ一の術の用法と同一である。


○里人の真間の監督法

 里人の真間は久ノ一の真間に比して、その反間となる危険性は少ない。発覚すれば獅子身中の虫として本人が過酷な刑罰に服さねばならないからである。しかしその採用に当たっては、誓紙と人質を出させ、その人間と血縁者の生殺与奪の権を保証として握ることは他の術と同様である。以上が里人の術の内容であるが、孫子の兵法ではこれを郷間(因間)と呼んでいるのである。