袋返しの術


 この術は、袋が表裏ひっくり返るように、味方の忍者を、まず敵方の忍者にし、小功を立てさせ、敵を信用させて、いざ大決戦という時一転して本来の味方の忍者に立ち返らせ、敵に大打撃を与える術を言う。敵を信用させるためには再三、敵に小判を与え、徐々にひきこんで敵が充分信用して、その忍者の進言を採用するようになった所で、鮮やかに転心して、なるべく敵に致命傷を負わせるようにする。

 この術は桂男の術とほとんど同じことをする訳だが、桂男は敵の表面組織に入る者で、忍者組織に入り込む訳ではない。袋は敵の裏組織、表面に出ない忍者組織の一員になるのだから、その働きに大きな違いがある。桂男の仕事は諜(調査)に重点がおかれるが、袋の仕事は謀(破壊工作)に重点がおかれている。孫子はこのような敵中に行動して生還を期する忍者の使い方を生間と呼んでいる。

 袋になる忍者は、桂男、久ノ一の術の時と同じく、自分の家中にあって、敵に顔を知られた者は使う訳にはいかないから、かねて用意の蟄虫を使う。その場合、他術とちがうところは袋用の蟄虫は下忍の働きができる、忍技のベテランでなければならぬことである。その為には、一般の蟄虫以外に忍技のベテランを平常から他国内に居住させて隠し持っていなければならない。