錬金術の実際
では、実際の錬金術はどのような作業をするのだろうか。
○賢者の石
錬金術には、小作業と大作業の二つの作業がある。小作業は、金属を銀に変える「白い石」を得る為の作業である。大作業は、金に変える「赤い石」を得るための作業である。別名、賢者の石という。この方法を多くの錬金術師が書き残しているが、どの文章も寓意に満ちており真意を理解するのは困難である。ただ、どのような記述でも賢者の石の精製は次の四段階を踏んで行われた。
1)予備作業
錬金術師は自らの手で器具を作り、俗民から離れた静かな研究室を用意する。ときには諸惑星の配置をチェックし、吉相である事を確認する。
2)「石」の材料の準備
厳密に言えば、万物は全て単一の素材からできているのだから、森羅万象あらゆるものを素材とすることができるはずである。しかしやはり制限があり、材料も採取する時期も占星術的に決まっていた。ロジャー・ベーコンも、本来なら動植物からす意義ンと言おうのエッセンスを取り出さなければならないのだが、自然に水銀や硫黄が存在する以上、それを使ったほうが有効だと書いている。つまり、鉱物を原料とするのが最も良い。これを言い表した有名な言葉に、「大地の内部を訪ねよ、精留によりて汝は隠されたる石を見出さん」とある。材料としては、まず金銀である。「麦は麦を、人は人を、そして金は金を産む」とはギリシアの錬金術師の格言である。そして硫黄、水銀、塩である。
3)「哲学の卵」の中での加熱
哲学の卵とは小さな球形フラスコで、錬金術師は水晶で作られたものを好んで使ったという。このフラスコは世界の卵(物事が生まれる前の無垢な状態)の象徴でもある。これに材料を入れて加熱する。この加熱温度と加熱時間にも厳密な規定があり、これに反すると正しい結果が得られず、しかもこの規定は理解しずらい寓意で示されている。しかし研究によると四段階の加熱であり、最初が60〜70度、第二段階が硫黄(S)の融点と沸点の間(113〜447,7度)、第三段階が錫(Sn)の融解温度より少し低いくらい(232度)、最後に鉛(Pb)の融解温度(327,5度)より少し低いくらいにするとよいと言われている。
哲学者の卵の中身は、これによって三段階の色の変化を起こす。まず黒これは腐敗を象徴している。次に白で、復活を意味し、この時点で止めると金属を銀に変える「白い石」が得られる。最後に、石は輝くばかりの赤色に変わる。これを赤化といい、「賢者の石」のできあがりである。
4)「賢者の石」の仕上げ
ここで哲学の卵を割り、賢者の石を取り出す。だが使用する前に、もろい塊である賢者の石を溶けた金と混ぜ合わせる。こうすることで賢者の石は質的にも量的にも無限に高まる。
○ホムンクルス
パラケルススが『ものの本性について』で紹介している。人間の精液を40日間、蒸留器に密閉し、精液が生きて動き始めるまで腐敗させる。この期間を過ぎると、人の形をした、ほとんど透明で非物質的なものの姿が現れる。この生まれたばかりのものに、毎日人の血を与えて慎重に養い、馬の胎内と同じ温度で40週間保存すれば、それは本物の生きた子供になる。ただずっと小さいだけだ。
○薬品
錬金術は様々な薬品も作っている。そもそも賢者の石そのものが赤い粉状のもので、飲むとあらゆる病を治す薬効を持つとされる。他にも霊薬(エリクサー)を飲めば長寿を得るし、万能薬(パナケア)を用いればあらゆる病は快癒する。また、賢者の石こそがエリクサーでありパナケアであるという説もある。他には、あらゆる物を融解する融解液(アルカエスト)なども知られている。
○錬金詐欺
18世紀になると魔女狩りが下火になるので、火あぶりを恐れることなく好きなだけ自称する事ができた。スポンサー、バテレンを得る為、研究室を貸して欲しいという名目で錬金詐欺が行われた。容器の底に金を入れて、その上からロウでフタをする。ロウは容器の底と同じ色を塗っておく。そこに鉛や水銀を入れて熱せば金がでてくるというわけだ。