ルーン RUNA,RUN


 ゲルマン語のル−ンという言葉だが、runaはギリシア語の”秘書・実義”、”神意・決議・目論見”、”協議・決定”という三つの言葉を訳すのに使われている。またrunは、ささやき、神秘、秘密、魔術の念で書かれた物、などの意味がある。現在、ヨーロッパではラテン文字(アルファベット)、ロシアのキリル文字、ギリシア文字の三種類が使われているが、古代では多数の民族が固有の文字を使っており、そのほとんどはラテン文字に席捲されて消えてしまった。ルーン文字を使っていたのはゲルマン民族であった。そのため彼らの来たことのある土地にはルーン文字の刻まれた石碑が散在している。

 ルーン叔父は3〜13世紀の千年以上も各地で使われたためバリエーションが多い。最古のものはゲルマン共通フサルクルーン文字で、24文字からなり、スウェーデン、デンマーク、フランス、ユーゴスラビア、ポーランド、ルーマニアあたりで使われた。第二のルーン(別名枝のルーン)は9〜12世紀にスウェーデン、デンマーク、ノルウェーの北欧三国でのみ使用されたもので、16文字からなる。ヴァイキングが活躍していた頃のルーンは大部分がこのルーンである。



○刻まれた文字


 ルーン文字は垂直線と斜め45度の直線のみから作られており、ラテン文字などと比べて曲線を排したところに特徴がある。これは石、金属、木材に刻み込むために作られた文字だからである。石碑や武器、護符や服飾品などに刻まれている。

 ルーン文字は3世紀から13世紀までほとんど形を変えていない。素早く書くのに向いた速記体などは作られなかった。これはルーン文字が表音文字であるとともに、漢字のような表意文字であったからと思われる。魔術的見地では、魔法を発生させるための文字の形は厳密であり、わずかな変更が魔法の失敗を意味すると考えられた。

 紙が発達し、文字を紙の上にペンで書くようになると、書くのに時間がかかるルーン文字は不便さから消えていった。それはルーン魔術の消滅を意味した。現在残されたルーン文字あどのようなものがあるだろうか。ヴァイキングが残した石碑には、船で旅立ったまま帰らなかった息子の生涯を刻んだものや、偉大な父の業績を讃えたものなどが多い。慰霊碑や記念碑だ。

では装飾品や武器のように持ち歩くものに、なぜルーン文字を刻んだか。当然の使用法として、名前を刻んだものがある。ただしこの名前が所有者、製作者どちらを意味するか、はては送り主なのかは不明である。しかしそれだけではなく、武器に「試すもの」とか「吼ゆるもの」という強そうな名前を刻む事も盛んに行われた。オーディンも、グングニル(揺らめくもの)という名を自分の槍に刻んでいる。



ルーン文字一覧 

No ゲルマン
共通フサルク
名称 音価 意味
fehu フェフ f Wwalth 家畜、富、財産
Uruz ウルズ U aurochs 野牛、鉱宰、にわか雨
Purisaz スリサズ th giant 巨人、いばら
ansuz アンサズ a god 神、河口
raipo ライゾー r riding 騎馬
Kaunaz ケーナズ k ulcer 腫れ物、松明、船
gebo ゲボ g gift 贈り物
wunjo ウニョー w joy 喜び、牧草地
hagalaz ハガラズ h hail
10 naupiz ナウシズ n need 困苦
11 isa- イーサ i ice
12 jera イェーラ j year 夏、豊作、収穫、年
13 eihwz エイフワズ i イェ yewtree イチイの木、材
14 perp ペルス p
15 algiz アルギズ z sedge スゲの木、大鹿、防御、庇護
16 sowulo ソウェル s sun 太陽
17 teiwas テイワズ t tur テュール(戦いと正義の神)
18 berkana ベルカナ b birch twig 白樺の枝
19 ehwaz エフワズ e horse
20 mannaz マンナズ m man 人間
21 laguz ラグズ l water 水、海
22 inguz イングズ ng ング the god lng イング(神名、英雄名)
23 dagaz ザガズ d day 昼、日
24 upila オースィラ o possossion 遺産、土地



○オーディンのルーン

  1. 救いのルーン  争い、悲しみ、悩みを取り除く。
  2. 癒しのルーン  傷を癒し健康にする。
  3. 敵のルーン   武器をなまくらにし、役立たずにする。
  4. 解放のルーン  手足の戒めをほどいたり切ったりする。
  5. 矢止めのルーン 矢や投槍などの飛び道具を落とす。
  6. 呪返しのルーン 呪いで受けた傷を倍返しする。
  7. 鎮火のルーン  火事を鎮める。
  8. 宥めのルーン  友人同士の憎しみの感情を消す。
  9. 航海のルーン  荒れた海の風や高波を鎮める。
  10. 退魔のルーン  幽体離脱した魔女を元の体に戻れなくする。
  11. 盾のルーン   戦士に勇気を与え、無事に戦場から帰還させる。
  12. 死者のルーン  死者と話をする。
  13. 守りのルーン  敵の刃が体に通らないようにする。
  14. 知識のルーン  神や妖精に関する情報を得る。
  15. 小人のルーン  神に力、妖精に栄華、オーディンに知恵を授ける。
  16. 情愛のルーン  女性の心をとらえ、恋をかなえる。
  17. 貞節のルーン  女性の心変わりをなくし、自分の元にとどめる。
  18. 最後のルーン  オーディンのみが知っている秘密のルーン



○ルーン魔術の実際


 ルーン文字は長い文章を書くのに向いておらず、またルーン魔術本来の使い方ではない。ルーンの本当の力は効果の高い物品の最も効果の高い位置に正確にルーンを刻むことであるといっている。ルーンには一文字一文字に固有の意味があるからだ。固有の意味を持った文字を正しい位置に刻めば、一文字だけでも絶大な効果を表すとされた。一文字なら、とっさのときにもあり合わせのものに刻むことができる。ルーンの力を存分に発揮させるには刻んだ文字を染める必要があった。特に自分の血で彫った溝を赤く染めることは、多くのルーン魔術でも使われている。ルーン魔術は正式には八つの要素で成り立っているといわれる。

  1. 刻印  ルーンを刻印する
  2. 解読  ルーンとその魔力を読む能力
  3. 染色  ルーンを染める染料とその意味
  4. 試行  ルーンの魔力を解読する条件と方法
  5. 祈願  ルーンを司る神への祈願
  6. 供養  ルーンを司る神々へ生贄を捧げる
  7. 送葬  捧げた生贄の魂を神のもとへ送る
  8. 破壊  すでに存在するルーンの効果を消し、安全に処理する  

これら全てを理解するものが完全なルーン魔術士であるが、そのような人物はまれだという。


○勝利のルーン

 戦いの神であるテュールのルーンを刻めばその力の一部を授かるとされる。使用法は、ワルキューレの言う通り武器にルーンを刻んで、テュールの名を二度呼ぶ。武器が敵の血で濡れ、ルーンに注がれるとその魔力が発揮される。魔力を高めるためにルーンと二重三重に刻むこともあったという。


○麦酒のルーン

 毒杯を避けるルーン。杯の手の甲にビールのルーンを彫り、さらに爪にナウズのルーンを描く。こうして酒に毒が混ぜられていた時察知できるといわれる。


○医療のルーン

 怪我をした場合は枝のルーンを用いると、怪我が樹に移るので患者が治るとされる。病を治すルーンを彫ったものをベッドの下に入れたりする。


○呪詛のルーン

 呪詛を意味するルーン文字が存在しない(笑)


○呪文の常套句

魔法・・・alu 呪文の前後によく使われる。

ニラ・・・laukaR 健康や豊作の象徴となる良い言葉。

馬・・・ehwe  馬は神聖なものだったので、魔法の言葉としても使われた。

幸福・・神の守護、という意味が転じたもの