クラーケン Kraken
○(1)バイキングのクラーケン
クラーケという名前を最初に海の怪物に与えたのは北欧の海洋民族バイキングで、クラーケンという単語は古代ノルウェー語の「北極(クラーク)」にちなんだもので、北極海付近の冷たい海に潜むドラゴンとされる。「恐ろしい海蛇(ドラゴン)」または「海の王」と呼ばれることもある。クラーケンは時折、長い首を海面から高く持ち上げながら船より早く進む姿を人々に目撃されており、霧の深い夜などにこっそり船尾から忍び寄り、船員をくわえたまま海に沈み込んで行くと信じられた。
姿については諸説あり、船より長い体、とがった牙の並んだ口、暗く輝く鱗を持つとされた。クラーケンの名前が広く知られるようにあったのはこういった海蛇ではなく、海に浮かぶ島のような怪物で、デンマーク、ベルゲンの司教エリック・ポントピダンはその著書「ノルウェー博物誌」で島のようなクラーケンについて詳しく記している。それによるとクラーケンは直径2,5Kmもあり、島のような巨大な背中を海面に浮かべ、この背中を島と間違えて(2)上陸した船乗りが焚き火をすると、船乗りを乗せたまま海中に沈んでしまった。クラーケンは海中に船のマストより太い触手を何本もたらしており、それに巻きつかれると軍艦でも沈められるとされる。
エリック・ポントピダンは「浮き島(海図に載っていない島)は全てクラーケンである」と記しており、クラーケンの害はかなり多かったらしい。しかしクラーケンの背中に上陸し祝福のミサをあげたときは、ミサが終わるまでじっとしていたとされる。クラーケンの特徴の中でも面白いのは、魚を引き寄せる香りを発するという事で、その香りにひかれた魚を何ヶ月も食べ続け、その同じ期間排泄しつづけるという。その排泄物にも魚が集まってくるので、クラーケンはエサに困ることはないという。
○シーサーペント Seaserpent
クラーケン、ミドガルズオルムのように海に棲む巨大なドラゴン(蛇)の伝説は現在もすたれておらず、正体は諸説ある。17〜18世紀以降、造船、航海術の進歩で海図が書き改められるようになると、大海蛇が目撃されるようになる。これは船体の高さが低い時代にまとまって目撃され、船体が高くなると目撃されなくなる。シーサーペント出現直後に嵐になり、いつも鎌首というかくびれのある首を持つことから、イルカなどが蜃気楼で伸びた姿になるとすると全ての点で合点がく。また、クラーケンは敵に襲われると海を真っ黒に染める性質があることから、正体は巨大なタコか蟹の可能性があるとされている。
○クラーケンとクジラとレヴィアサンの関係
船乗り達に目撃されることが多かったマッコウクジラもクラーケンのようによい香りを発して人をひきつける性質を持っており、その巨体が浮き島と呼ばれることもあることからクラーケンの正体はマッコウクジラとされ、そしてクラーケンとクジラの混同は、同じようにクジラと混同されていたレヴィアタンとの混同も招き、まざっていく。
(1)バイキング
Viking。8世紀末〜11世紀にヨーロッパを襲ったスカンディナビア半島の海賊で、半農半略奪遠征の生活をしていた。
(2)上陸
このクラーケンは、ジャスコニーと呼ばれる巨大魚で、海面に背中を出したまま自分の尾をくわえようと、グルグル円を描いて泳いでいると言われる。