幻の水面 ショートストーリー劇場「王女と侍女と蛮人」

作:ねこさん


ACT1.王女の折檻



「なんですって!」
 少女の叫びがクリスティア王宮の豪奢な一室に響いた。
 彼女は白いドレスに略冠なれど王家の証である冠を頭に載せている。長い黒髪に整った顔つきは、黙っていれば可愛らしい人形のようにも見えただろう。だが、その顔はいま憤怒の形相で歪んでいた。
 クリスティア王国第二王女アリサ。それが少女の名である。
「姫様……お許しくださいませ…」
 アリサに向きなうように床に座っていた少女が土下座するように頭を地面へとつける。彼女は青い侍女の制服を着ていた。ブロンドの髪を赤いリボンで後ろで束ねているのみで、それほど装飾はされておらず、肌も化粧をしているわけでもない。だが、それでもなお彼女は見る者を振り向かせるだけの美貌を持っていた。あるいは磨けばアリサ以上に美しくなるかもしれない。
 侍女の娘は、床に揃えてつけた手をわなわなと震わせつつ、主人の激昂が去るのを神に祈っていた。
「許すも許さないもっ、ぜんぶ、あーなーたの責任でしょっ!」
 びしっとアリサは白い長手袋をはめた手の指先を侍女へと向ける。侍女の娘はびくっと身体を震わせた。
「ラメリー!! 貴女、言ったわよね? 私が行いますって」
 急にアリサは猫なで声になって語りだす。ラメリーと呼ばれた侍女はがたがたと震えを強めた。アリサが幼い頃から仕えてきた彼女は知っていた。彼女がそのような声を出すのは、決まって次に癇癪を起こす前兆だということに。
「は、はい……」
「じゃあ、その内容を言って御覧なさい?」
 ラメリーは小さな声で途切れ途切れに答えた。
「姫様がショコラケーキをご所望してらっしゃるので、この私にヴェイトス市の『甘味処』へまで買いに行くようにと……」
 アリサは満面に笑みを浮かべて地面に伏せている侍女に笑いかけた。だが目はちっとも笑っていない。
「わかっているじゃない。で、その結果はどうなの?」
「あ、甘味処では品切れでして……、それから市内のお菓子屋さんを廻ってみましたが、結局どこにも売ってなくて……」
 しどろもどろになって答えていく。視界が歪んで見えた。涙が目に溜まりつつあるようだ。
 だが、そんな侍女の姿を見てもアリサは容赦することはなかった。否、ますます激昂を強めていったようだった。
「泣けば済むって思ってんじゃないわよ、このタコ!!」
「ひいいっ」
「貴女も知ってるでしょ。わたくしはいま城の外には出られない身ってことを。あれから──」
 恥ずかしそうに顔を赤らめる。ヴェイトス市の暗黒街でゴロツキどもに捕らえられ、性奴隷として過ごした屈辱の日々を思い出し、唇を噛む。
 結果として他の冒険者らに救出されたものの、それからアリサは王の命令で冒険道具一式を取られて、王宮の姫として退屈な毎日を送る羽目となったのである。
「お父様によって、城から出ちゃいけないと厳命されて、仕方なくわたくしは貴女に頼むしかなかったのよ。それを貴女は──」
 形のいい眉が狭まり、目が怒りに燃えている。
「もしも、わたくしがショコラケーキを食べられなくって、その結果ストレスで過労死でもしてごらんなさいっ。クリスティア王国の未来はどうなるというの? それも全部、あーなーた一人が原因となるのよっ!!」
 そんな無茶苦茶な……と口まで出かかった言葉をラメリーは必死で飲み込んだ。こんな状態になったアリサを止められるのは神しかいないだろう。
 いや、神でも不可能かもしれない。
「とにかく、貴女にはおしおきが必要ねっ。私のこの憤りを冷ますためにも!!」
「ひぃっ!!」
 ラメリーは助けを求めて周囲を見渡す。だが、ほかの侍女たちも王女の怒りのとばっちりを食らうのを恐れて、視線を合わせようともしない。
 彼女は普段は友情とかを口にだす女の本性を知った。きっと、誰かが自分を助けてくれる。そう信じていたのが馬鹿馬鹿しくなる。誰もが自分可愛さにラメリーを見捨てる道を選択していた。
 アリサがにやにやと笑いながら、侍女たちに命じた。
「その子をひん剥いてやりなさいっ。それから、鞭を」
「は、はいっ」
 侍女たちは慌ててラメリーを両側から抑えると、メイド服を引き裂きはじめた。びりっ、びりりっ、と派手な音を立てて、白い絹地が引き裂かれる。
「いやぁぁぁぁぁーーーーッ!!」
 ラメリーはたちまち裸にされてしまう。まだ幼い体にようやくふっくりとふくらみかけた双丘が露となり、少女は恥辱と恐怖で身体を震わせた。
 そして侍女の一人から奴隷を打擲(ちゅうちゃく)するための鞭をアリサは手に取り、ぶんぶんっと空中で振ってみせる。もと冒険者だけに、その動きは慣れた手つきだった。
 ラメリーは目を見開いた。己の運命を悟った。
(あぁ……神様……お助けくださいませ……)
 そう彼女が宇宙の何処かの何者かへ祈ったとき、アリサの放った鞭の一撃が白い背中へと叩きつけられる。
「あぁぁーーぁっ!!」
 このような経験にほとんど縁のなかったラメリーは、衝撃に悲鳴を張り上げた。だがアリサは容赦することなく、第二、第三と鞭を放っていく。
 侍女たちは目を伏せながら、主人の「おしおき」を黙って見守るほかなかった。
 王宮の静まり返った部屋から、少女の悲鳴と鞭の叩かれる音が一晩中響いていた──



 ACT2.ガルンドルフ登場



 クリスティア市の場末の酒場のカウンターにて、一人の少女が黙って酒を口に運んでいた。
 少女は傷だらけの身体に包帯を巻いていて、その上にメイド服を着ている。王宮の侍女であったが、随分と飲んでいるようだった。空のグラスがカウンターに積まれている。
 ラメリーであった。
「うぅ……ひっく。アリサぁぁっ、あの馬鹿娘、いつか……いつか……」
 泣き声を出しながら酒をぐいっとあおる。その前に座っているマスターがやれやれという表情で黙ってコップを拭いていた。
「なんで姉上のクリサリナ王女様はあれだけ御しとやかで私ら下々の者にも優しいのに、妹のあの馬鹿は──」
 ぶつぶつ言い続ける。すでに夜更けも近いというのに、彼女の愚痴はとどまることをしらない。酒を助けに、宮仕えで今までに溜まっていた何かをすべて吐き出すつもりのようだった。
「もうこんな仕事、やめてやるぅぅぅーーーっ」
 侍女の絶叫が店に響く。すでにそこでは客は誰もおらず──いや、一人だけ黙って酒を飲んでいる男がいた。
 見るからに蛮族然とした男。ほとんど全裸に腰布のみをつけていて、さらに真新しい両刃の斧を腰にぶらさげている。男は銀のマグカップに並々と注がれたエール酒を大仰に呷っていた。
「ねえちゃん、さっきから随分と荒れてるじゃねえか」
 立ち上がると、マグカップを片手にカウンターの隣の席へと歩いてきた。ラメリーはびくっとして蛮人を見る。
「なんだその顔は。俺様はとって食ったりしねぇから安心しな」
「貴方は?」
「俺様か? ちょっくらここらに用があって来たガルンドルフってえモンだ」
「私は、ラメリー。アリサ王女おつきの侍女です」
 自己紹介をすると、ガルンドルフはほぅ、と小さく呟いた。
「その侍女サンがこんなところで愚痴吐きかい? 他の侍女に苛められでもしたのか?」
 見ず知らずの蛮人がそこまで親身になって聞いているのにラメリーは不思議に思った。いや、おそらくこの男にとって、それはただの酒を飲む傍らの暇つぶしにすぎないのだろう。だが、ラメリーはこの無骨な男にはなぜか全てを話せる気がした。
「じつは──」
 ぽつりぽつりと話し出す。ガルンドルフは黙って酒を口につけながら侍女の話を聞いていた。
 聞き終えた時、蛮人はこつん、とマグカップをカウンターに置いて、その岩のような顔を侍女へと向ける。
「なんってぇ性悪女だ。おたくらのお姫様は」
「ひ、姫様はそんな……」
 さっきまで散々にこき下ろしていた自分だったが、いざ外国の人間からそう言われると、つい弁護してしまう。自分でも奴隷根性だと思うが、こればかりはしょうがない。
 なんだかんだ言っても、自分はあの王女を好きなのかもしれない。
「いや、いい。そういうワガママ勝手に過ごしてきた女には、お灸を据える必要がある。俺様に任せな」
 ガルンドルフはにやりと笑った。無骨なれど、なぜか引き込まれそうになる笑み。侍女は反論の口を閉ざした。
「なぁに、殺そうってんじゃねえ。ちいっとばかし、痛い目にあったほうが、姫様のためでもあるってことさ」
「何を……するつもりなんですか?」
 ガルンドルフは屈託のない笑みを浮かべると、侍女の耳元に自分の計画を語りはじめた。



ACT3.アリサの危機



 すでに窓から日が差してきている中、アリサは遅い目覚めをする。サイドテーブルに置かれている水時計が午後2時を告げていた。
「ふぁ〜〜あ。よく眠れたわ」
 天蓋付の豪奢なベッド。それはガンディアから特注で仕入れた最高級品。さらに、彼女が一緒に寝ていたパンダのヌイグルミは、ティアンから仕入れた特注品。
 王者の一族に生まれた者のみが味わえる優雅な目覚めである。
 上体を起き上がらせると、そこに控えていた侍女が着替えのドレスを両手に握ってベッドに近づいてくる。
 アリサが見ると、それはラメリーであった。もっとも、忘れっぽい彼女にとって、数日前に行った折檻のことはころりと忘れている。
 だが、被害者が痛みを忘れることは永遠にない。人生経験の乏しいアリサは、その事は理解していなかった。
「姫様、お目覚めでしょうか」
 ラメリーの声も、いつもと変わらなかった。アリサはうん、と頷いて、黙ってパジャマのボタンを上から外していく。たちまちアリサは白いブラジャーのみになっていく。毎日、侍女たちには着替えの時に肌を見せているので、彼女は羞恥することはなかった。
「今日は貴女一人なの?」
「はい。ちょっとほかの侍女は急用がありまして……」
 嘘である。今頃、城のアリサ付の侍女たちは全員、昨日の夜に食事に入れておいた眠り薬によって、ぐっすりと休んでいることだろう。
「ふうん。まあいいわ。じゃ、着替えさせて頂戴」
 パジャマの下もシーツの中でごそごそと脱いでいく。本来の貴族の娘なら、それらも全て侍女たちに任せっきりにするのだが、アリサは冒険者だった頃の癖で自分でやるのだった。そのほうが手っ取り早い。
 ラメリーが失礼、と頭をさげて、アリサのドレスを手に持ってベッドへ近づこうとしたその時──

 ばたん!!

 本来なら、静かに開け閉めすることが厳命されている扉が乱暴に開けられた。
「!!」
 アリサがびくんっとして扉のほうへと見る。
 そこには、一人の男が立っていた。全裸に近い褐色の肌に腰布のみ。片手には斧を握っている。
 ガルンドルフである。
 さらに、その後ろの通路では衛兵二人が伸びているのを彼女は見た。衛兵はアリサの寝所を守るという栄を受けた親衛隊の女騎士たちである。女といえども、そう簡単に倒せる者達ではない。しかし、今その二人はぴくりともせずに床に倒れている。
「な、何奴!! ここをアリサ姫の寝所と知っての狼藉かッ!!」
 ラメリーが叫んで蛮人の前に立ちふさがる。だが、つかつかと部屋に入ってきたガルンドルフが鳩尾にパンチを送ると、侍女はウッと呻いて床に倒れこんだ。
 もっとも、これもすべて昨日のうちにリハーサルした演技であった。実際にはガルンドルフの一撃は寸止めであり、彼女は気を失った振りをしているのみである。
 もちろん、混乱するアリサには、その事は知りようはずもない。
「ラ、ラメリー!!」
 アリサは悲鳴を上げて、サイドテーブルへと手を伸ばす。そこにはいつも愛用のレイピア「アルビオン」を置いている。
 敵軍や暗殺者の襲撃が日常茶飯事である王族にとって、それは身だしなみの一つだった。もっとも、王女という身分で武器を常に身につけているのは彼女くらいであろうが。
 だが──その日に限って、なぜかそこには何も無かった。
 もちろんそれも、前日の夜にこっそりとラメリーが隠しているのだ。
「ええっ!?」
 アリサは身を守るすべもなく、顔を近づいてくる蛮人に向けると、白いシーツをぎゅっと握って胸を隠そうとするのみだった。
「お、お前は──何者なのッ! 敵の手の者かッ!?」
 アリサが叫ぶと、ガルンドルフはへへっと笑った。
「違うぜ。俺様はちょっとした正義の味方だ。お姫さん、あんた、少し図に乗りすぎていたようだな。お仕置きが必要って訳だ」
 げらげら笑いつつ、大股に蛮人は近づいてくる。アリサにはもちろん男の言っている意味はわからない。だが、目の前の男が危険な存在であることは確かであった。
「そ、それ以上、近づくなっ。死にたくなければ──」
 アリサが最後まで言う余裕を与えずに、蛮人はベッドへと飛びかかると、白いシーツを片手で掴み、ぐいっと引いた。
 びりりっ、とシーツは破れ、アリサはあっさりとガルンドルフの視線に己の裸身を見せる羽目となった。
「きゃあぁぁぁっ!!」
 悲鳴をあげるが、すぐにその口を男の右手で押さえつけられる。
「ほう。ガキンチョのくせして随分と熟れている体じゃねえか。さっそく頂くとしようかい」
「うぐぁ、うがぁぁっ」
 口の中で喚いていたアリサだったが、男のパンチが鳩尾に叩きつけられると、目から火が飛び散る。
「うぅぅーーーーーっ!!」
 それで力が抜けた隙に、男の両手がアリサの胸を鷲掴みにして、力強く揉みしだきはじめた。
 さらに、身体の上に蛮人が覆いかぶさり、逃げようがなくなっている。
「やっ……やめぇ……て……ッ」
 アリサの悲鳴は最後まで言えなかった。男の左手が自分のショーツへと伸び、ぐっと下へと引き裂くように落としたのだった。アリサの繁みとまだあまり使われていないピンク色の割れ目が蛮人の目に露にさせられてしまう。
「いやぁぁぁぁーーーッ!! 助けてぇーーーッ!!」
 そう叫ぶアリサだったが、自分の秘所の中に男の物が押し込められていく感触を感じて、おぞげをふるった。

 それから、王女は何度と無く蛮人に犯された。前を、後ろを、さらに口の中にまで一物を入れられ、射精を受け入れさせられる。
 アリサがようやく開放されたのは、一時間ほどしてからだろうか。ベッドの上で大の字になってぐったりとしている彼女を尻目に蛮人は起き上がると、
「ごちそうさん、お姫さん。俺様の子供が出来たら、王様にでもしてくれや。へっへっへっ」
 下品な笑い声をあげつつ、ガルンドルフは悠々とした足取りで部屋の外へと出て行ったのである……。



ACT4.ガルンドルフ暗殺指令


 
 アリサはようやく茫然自失から解放されると、破れたシーツで自分の裸体を隠しながら叫んだ。
「誰かッ。誰かいるかっ」
 倒れたまま一部始終を薄目で見ていたラメリーは、目を開けると起き上がっていった。
「ア、アリサ姫様……」
「ラメリーっ。無事だったの!?」
 アリサの心配そうな顔を見た時、ラメリーは自分のした事を後悔した。
(姫様……私、とんでもないことをしてしまった……)
 さらに、衛兵の女騎士たちが起き上がってきて、部屋に入ってくるとアリサの前で跪く。
「申し訳ありません、姫さまッ。蛮人めの侵入を許し、姫様のお体を穢してしまったこと、お命を危険にさらしてしまったこと。我ら万死に値いたします!!」
 女騎士たちは泣き出していた。自らの技量の低さによる職務の完全な失敗。自らの存在価値の完全なる失墜──。もはや彼女らには泣くほかない。そして、己の存在価値を奪った男へ復讐を果たすほか。
「申し上げます。姫様!!」女騎士の片方、名前をエルラという女が涙を頬に濡らしながら叫ぶ。「わたくしめに、あの痴れ者を追討することをお許しくださいッ!! 必ずや、必ずやあの男めを討ち果たし、我らの汚名を返上する機会をッ!!」
「許す」アリサは憎悪に満ちた目で部屋の外を睨みつけつつ答えた。
「エルラ、なんとしてでも、あの男を討ち果たしてくるのよっ。我が前に、あの蛮人の首を持ってきなさいっ!!」
「ハッ。ただちに!!」
 エルラは叫ぶと同時に跳ね上がるようにして起き上がり、アリサに一礼をすると、部屋の外へと走っていったのだった。

 その頃。
 ガルンドルフは、ラメリーから教えてもらっていた城の秘密の抜け穴から出て、クリスティア城の外へと姿を見せていた。
 すでに月は中天を過ぎている。潮を含んだ生ぬるい風が北方から吹いてきて、蛮人のブロンドの髪をさらさらと揺らす。
「はっはっ。気分爽快ったあこんなところだ。あのお姫さん、思ったよりは旨い身体してやがったな」
 げらげら笑いながら、陽気な蛮人は南へと進路を向ける。無論、彼にとっても、これだけの悪事を犯した以上、クリスティア国に長居は無用であることは知っていた。暫くはヴェイトス市に身を隠すことになるだろう。
 両刃斧の柄を右肩に乗せながら、海岸よりの道を歩き続ける。だが、暫くして蛮人の鋭い聴覚が、背後からの音を聞いた。一頭の馬の蹄の音が響いてくるのを聞き逃すことはなかった。
「早えぇな。思ったよりも」
 面倒くさそうに振り向いた時、一騎の女騎士が黒馬を全力疾走させてこちらへと走ってくるのを認めた。女の顔はまだ遠くにあるので判別できないが、銀色に輝くクリスティア騎士団の鎧をつけているのがわかる。さらに腰には剣を下げているようだ。女は頭に兜をつけておらず、長い赤髪を追い風に靡かせつつ、馬に酷使を強いている。
 ガルンドルフは逃げようとはしなかった。たとえ逃げても街道ではすぐに馬に追いつかれることだろう。肩に乗せていた斧を下ろして両手で握り直す。一戦もやむなし、と考えていた。
 しかし、予想していたような騎士団との集団戦にはならないのを訝しく思った。そしてガルンドルフは気づいた。
「おそらく、あの王女。自らの側近のみにしか話していないな。もっとも」
 にへらと卑しそうに笑う。
「あんな事、王様や男の騎士たちに話したら、仰天されるだろうがな。へへっ」
 敵が一騎のみだと、まだ勝算はあると思った。というより、この蛮人は自分が敗北するとはこれっぽっちも考えていない。
 女騎士が蛮人の前に立ちふさがると、馬の手綱を引いた。馬は急停止し、後ろ足のみで立ち、前足を空中に上げて暴れる。
「貴様……あの時の蛮人だなっ!?」
「おう」
「私はクリスティア王国騎士団アリサ王女親衛隊の騎士エルラという者だ」
「エルラ?」
 ガルンドルフはじっと赤毛の女の顔を見て、ようやく思いついたように答えた。
「ああ……あの時、衛兵をしていた弱いねぇちゃんか」
 びくっとエルラの眉が上がった。わなわなと震えだすと、右手が腰の剣へと伸びた。
「あの時は、貴様の卑劣な奇襲によって不覚を取ってしまったが、正面からの戦いとなったら貴様には遅れを取らぬ!! その首、刎ねて王女さまへ差し出すことにいたす!! 覚悟ッ!!!」
 馬から飛び降りると同時に剣を抜き、銀色の光状がガルンドルフを襲う!!
「へっ。甘いんだよ!!」
 ガルンドルフは両刃斧を頭上に掲げて、女騎士の斬撃を防ぐ。ガキン、と両方の金属が激しくぶつかりあう音がしたと思った刹那──
「ほうらよ!!」
 蛮人は思いっきり右足の蹴りを女騎士の腹へと叩きつける。こんな野蛮な戦いに慣れていない女騎士は避ける隙がなかった。
「えっ、きゃっ!?」
 たたらを踏みつつ、背後へと数歩よろめく。そこを蛮人のタックルが襲った。女騎士は悲鳴をあげつつ倒れこむ。
 その上をガルンドルフが馬乗りになる。
 そして彼女は見たのだった。己の首すじ数ミリのところに蛮人の斧が置かれていることを。
 剣は倒れたときに手放していたようだ。右手から一メートルほど奥の地面に落ちている。無論、自分が拾いに動こうとしたら、ただちに斧が振り落とされることくらいは彼女は理解していた。
「……殺せ。私はもう……生きていられぬ」
 エルラは観念して体の力を抜いた。だが、ガルンドルフは斧を落とすでもなく、口を歪めて笑う。
「まだまだだな。殺すほどの価値もねぇ。もう少し、戦いの経験を積むこった。あばよ」
「えっ!?」
 エルラが呆然としている中、蛮人は黒馬へと飛び乗り手綱を引く。
「馬は借りるぜ。もっとも、返す当てはないがな」
 げらげら笑いながら馬を走らせ、たちまちガルンドルフは街道を南へと消えていった。
「あの蛮人め……私を……どこまで侮辱する気だ……」
 エルラは立ち上がると、屈辱に唇を噛みつつ、自らの視線から消え去ろうとする男の背中をずっと睨みつけていた。


 終わり




 あとがき


 アリサとガルンドルフ(と、NPC数人)のお話です。
 なんだかかなり……アレな話になったような……。

 そういえば、アリサとガルンドルフって長く使っていましたが、直接会った事はありませんね。
 まあ自作自演ロールはしないので、当たり前ですがw

 次回はシリアスな戦争モノになると思います。
 他のPLのキャラを勝手に出すのはやめておいたほうがいいので、当分はうちのキャラとNPCのみを使うと思います。



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