墓場

夜明けのような光と共に消える。全ては夢のように。ただ、決して夢ではない現実を残して。

そんな弱いメンタリティを持った科学者がいた。
魚人社会への忠誠はなく、ただ「成り上がる」ためだけに工場に勤めていた。
しかし、いつしか友人を得、尊敬する人物を知り、最期は「生き残る」ではなく、魚人社会の役職人としてのケジメを全うすることを望み、騎士の介添によって死を選んだ。
人は弱いと言うだろう。愚かだと嘲笑うだろう。
しかし、彼女は最後には「魚人社会のヒトとして」死にたかったのだ。

その死体は海底城が眠る海の底へと沈んでいった。

　妻を殺した人間への恨みだけでヴェイトス市侵略作戦に参加。
大聖堂襲撃の際に捕獲され、尋問によって瀕死になったマーマンの体は
シスター・ジャスティスの意向により海へと返されゆっくりと永遠の眠りにいた。

海底軍所属指揮官、チク。
名門の軍人の家系の出身であり、エリートとして育てられ、
己の抱く使命に燃えて、ヴェイトス市侵略作戦に加わる。

若さと未熟さが残る指揮官だったが、多くの優秀な部下達に支えられ、
ヴェイトス市港襲撃、海岸での陽動作戦、奴隷ギルド襲撃などを成功させる。
しかしヴェイトス中央病院襲撃時に敵の猛烈な抵抗にあい、敗北。
捕虜になることを良しとせず、その場で自決した。遺体はリダによって海に返された。

状況が違えば、リダとは友となれたであろう。
敵同士であることを恨む気持ちはあったのだ。

時間さえあれば、ジュリアのその気持ちに気付けただろう。
彼女の真心は戦争で荒んだ心を癒し、そしてそれに感謝していた。

もっと将軍と共に戦えたらと思っていた。
軍人として心から尊敬していたのだ。今は武運を祈るのみ。

伝えたい思いはあった。だが、戦争がそれを許してくれなかった。
チクの私物からは、白紙のままの遺書が見つかるだろう。

正門攻防戦にて奮戦、敵司令官スキュレインを足止めするなどの活躍を見せたマリアヴェルだったが、その代償はあまりに大き過ぎた。

スキュレインの怒りを買い、追い掛け回され、逃げ回るもついに捉えられる。必死に命乞いして、捕虜にしてくれるよう懇願するも、無視されて生きたまま食い殺された。

更には、その遺体の首から下は滅茶苦茶に食い散らかされて正門の所に叩きつけられ、元は人間であったとは誰も思えない肉塊となった。
その頭部は中央噴水広場にて晒し首にされて、宣戦布告文と共に多くの人の目に曝され、市民に事態の深刻さ、敵の恐ろしさを知らしめた。

その首は騎士アイリによって回収され、ここに埋められたが、その胴体は結局行方不明のまま……

始祖の吸血鬼。始まりの吸血鬼。怪物の中の怪物―――　…　。

10月29日のコロセウムで豪天寺艶子との死闘の末に。
吸血鬼と悪魔の力が尽き果て、消滅の道に辿った。

アクセラレーターの魂は豪天寺艶子が背負う。
アクセラレーターは確かに豪天寺艶子となった。

信仰、神の力、そして名すら失った神は、独り白に埋もれて消える。

さようなら、さようなら、さようなら。

　大聖堂派パプテス教会所属、アザリア・ヘミングウェイ
ウォッシュベアー事件にて30日間の抵抗の末、九月三十日、永眠。
　両親は既に別件で他界し遺族は無し。
遺品は暗黒街支部教会、ジャスティス・ブラウニーに託される。

　その生と死に意義を問うのはただただ、遺された者のみ。

自警団員、コンスタンツェ・ヴィーゼンタール

目玉泥棒事件の捜査中、事件の犯人に遭遇し暗黒街にて殉職。
しかし、本人が最後まで正しいと信じていたその信念は、きっとこれからも生き続けるだろう。

街の平和を守る。
それがコンスタンツェの夢だったのだから。

愚か者め。
呟いた一言は、彼に向けてか己に向けてか。
夢と名乗った小さな魔女は、夢のまま。