墓場

あまりにも謝る事が多過ぎて
あまりにも謝る人達も多過ぎて

けれど何も知らない吸血鬼が得るにはあまりにも幸福は多過ぎた

だから間違いなく僕の人生は幸せだった


だけど貴女との約束を守れなくて　　　ごめんなさい

討伐報告

暗黒街にて人喰型吸血鬼通称「モビィディック」の討伐を確認。
灰及び略奪したとみられるハンター等の武装も回収。
これらの武装及び特徴的な衣装から、対象と判断。
現場には戦闘跡と思しき破壊跡が確認され、
民間によって討伐されたものと考えられる。
死因は不明。
住処及び棺等の捜索は依然完了しておらず。

回収された武装は以下の通り。
ハンター・セレニアよりの銀メッキのショートソード、ナイフ
その他持ち主不明の両手持ちの大鋏、無銘の太刀、
異端否定文句の刻まれた祝福儀礼済み銀製スティレット

ハンター・セロシアより強奪された巨大十字架は発見されず、恐らく住処にあるものと考えられる。
引き続き調査を続行。


……とまあ、道化の二千年はそれで終わった。

死を招く椅子が世間を騒がせていた頃。

泣き虫で弱虫で、生意気だった奴隷の少年は死の呪いに負け、最後は馬車に引かれて息絶えた。
遺体はアーシュラ・クライヤ・カーティスト邸の裏庭に葬られ、そこで静かに眠り続ける。

闇市に、とんでもなく上物の剣が売りに出されてるんだと。
どっかに隠してあったらしいんだが、
またクセのある剣でな。
人間の物じゃないって話も出てる。

柄に何か彫ってあるとか…
確か…ぎるが…

…ま、どうでもいいか。どうせ売り物にならないよ。
今頃溶かされて、鍋にでもなってるだろうさ…

　商業地区の人込みで起きた夜の凶行。
被害者は魔女団体スターブルームに所属していた経歴を持つ
少女、エレナ・ストーンズ（15歳）。
　骸骨顔の怪人に追い回されて戦闘用のナイフで刺殺される
姿を多くの通行人が目撃している。
　尚、怪人が繰り返し「こいつは悪魔だ」と主張していたが、
エレナ・ストーンズの遺体及びヴェイトス市民登録上の種族は
ホワイティアであるというのがヴェイトス市病院の発表である。

　安全と謳われていた一般市街地での凶行は口コミで、号外で、
ヴェイトス市に広まっていくだろう。多くの人の心に暗い種を
蒔き、花開く時を待ちながら。



　悪魔が残したものは魔法でも呪いでもない。ただの囁き。
悪意、敵意、嫌悪に憎悪、悲しみ憎しみ痛み欲望利己嫉妬。
土壌は人々の弱い心。悪魔の囁きは優しく堕落の種を蒔くだけ。
あなたの心には、どんな花が咲きますか？

ヴァンパイアハンターに恨みを持つ仲間達と共に、
狩人狩りを行うも、狩人に捉えられ処刑。
最後に言おうとした感謝の言葉は、結局誰にも届くことはなかった。

彼女が所属していたハンターハントという組織も崩壊し、
この事件は一応の決着を見せる。

しかし、吸血鬼と狩人の戦いはこれからも続く。

そうやって微笑んだ少女は、愛するを永遠にするために「死」を選んだ。
けれど後悔はしていない。
少女は天で大好きな両親に会えただろう。
そして話すんだ。この世界のことを。
無知だった少女が得た「こころ」を。
愛してくれた主人が、どれだけ優しくて大切なひとだったかを。


――ねえ、ひおー。
だいすきだよ。


紫水晶は、永遠にそうして笑っているだろう。
彼の幸せを、ずっと願うように。

害悪が幾ら害悪を振りまいても、
今日も日が昇ると共に人々は起き、祈り、働き、食べ、そして寝る。
アニーがやったことは、所詮大きな川の流れに石を一つ投じたに過ぎない。
残ったのは小犬と、道化師の人形のみ。

灰は灰に、塵は塵に。
「灰色の吸血鬼」が染まれる色は、灰の色だけ。

牢屋の中から救ってくれたのは、彼。
物だった僕を、人として見てくれたのも、彼。
罪人たる僕の料理を、美味しいと言ってくれたのも、彼。
ヴェイトスの街を教えてくれたのも、彼。

――全ての救いをくれた悪魔を、僕は愛している。

だからどうぞ、食べてください。
僕の全てで、貴方の全てに答えたい。

僕の最後の一欠片まで、貴方のものなのだから。

　ぼろ、ぼろと砕け散った杖は静かに起動音を止めた。
「それ」は生きるとか死ぬとかとは無縁のただの擬似的に
作られた人格で。最後まで与えられた機能を正常に作動させ
続け、ただ壊れて止まった。
　残されたのは核に使われていた大振りのジェム１つ。
あとは孤独な吸血鬼の娘の心の中に。