墓場

魔界からやってきた化け物は、寒河江未希らの手によって
魔界よりもっと酷い所に閉じ込められてしまった。

そいつの名前はカタリナ。
そいつの名前はカタリナ。
そいつの名は―――…………。

多分、やがてそれも忘れられていく。
カタリナ自身ですら、自分の名前を忘れてしまったのだから。

結局、遺体は屋敷と共に灰となって混ざり合い、レティシアのカタチを残すものは、なにもなかった。
変わりに麻の袋一杯に灰が詰められ、それを棺おけに収めることで、クレストラ家当主の棺としたのである。
家も従者もなくした貴族は、すでに貴族ではなく、遺体はヴェイトスの墓地に、ひっそりと葬られたのであった。

魔界を彷徨い出た魔獣は、結局、ヴェイトス地方村の片田舎でその生涯を閉じる事となった。
体は火と摂理に焼かれ灰となる。其処には悪魔の不死性も獣の生産性もない。 産まれながらに奪い取るだけの存在なれば、後に何かを残す事は、出来ぬのだ。

最後まで、天使として生きて滅んだ。

裏切られ、闇に染まり掛けても生きたかった。
けれど、憎悪と使命を以って闇と共に消滅に至る。

最後で強大なる魔族と戦い続け親友に幸福を願った。
光も闇も無い世界に逝く、白銀の天使クロスは消滅す。

最後の最後で最大なる天敵に葬られる。

悪意と敵意、そして幾つか大罪を背負わされる。
残された物は、古城の王の間の偉大なる大扉だけ、

滅ぶ時が来た、白き道化師ルシアは自然に葬られる。

其れが唯一の墓石―――

無論、参るものも、何も無い。
崩れ去り、消え去るだけの、
黒い存在―――

どれだけ気高く生きていていたとしても所詮は獣
強きに降れず弱きを喰らい続けただけならば
いつかは骸になるが当然の事か。

消滅した意識には、その結果を知る事は適わない。
主を失った後、最後に指定された目的を全うすべく、持てる全てを賭して散った。

魔界紳士と呼ばれた男は、戦士としての生を全うし、虚無へと帰っていった。