タイトル | : ―――…あれ? |
投稿日 | : 2010/04/20(Tue) 00:43 |
投稿者 | : ソレディー |
( 紅鱗騎士団随員ソレディー・カモシレーヌは、同じく随員の少年とお使いに来た帰り、ふと目に入ったその展示会を覗いて行こうと言い出した。
絵画に特別興味があるわけではないけれど、上流階級向けの新聞でそれなりに取り上げられていたのを覚えていたし、わざわざ足を運ぶほどでなくても、そこにあるのなら見てみたい。
寄り道しないでさっさと帰ろうと渋る少年の腕を掴み 『文化です!』 と押し切って、ぱぱっと済ませますからと何やら失礼なことを口走りながら、子どもっぽい歓声など上げつつ会場を流していった。
―――その足がふと 『まっくらな森』 の前で止まる。
馴染みのある森とはもっと明るくて、生命の彩りに溢れたものだ。
けれど、何度か踏み込んだことがある常世の森の内側は特別で、こんな印象を抱いている。 それを、思い出す。
これを描いた画家は、あれを見たのだろうか。
まるで目の当たりにしたかのように良く描けていると思うけれど、暗闇の向こうに潜む何かの息遣いまで感じる、このプレッシャーは何だろう。
…実物でさえ、これほど恐ろしげではなかったような―――
―――何が、画家に 『森』 をこれほどまで不気味なものとして描かせたのだろう。
もしかして、森で暮らしていましたと私が言うとき、それを聞いた街の人が思い描くのは、これなのだろうか。
母の故郷は、一般的に、このように捉えられてしまうものなのだろうか。 )
( 先を歩いていた少年が早くしろと振り返ったときには、ハンドバッグを残して、ソレディー・カモシレーヌは消えていた。 )