タイトル | : 魂の在り処 |
投稿日 | : 2010/04/23(Fri) 00:13 |
投稿者 | : 銀嶺 |
( 上流貴族の令嬢の護衛として雇われ、一定の距離を保ち続けた。漆黒色の燕尾服を着通した銀髪長躯。
令嬢が令嬢だから護衛を引き受けた訳でない。美術や芸術に込められた想いを感じ取ろうとするのが好きだ。
永遠に等しく、形を残す事が出来る。人間の限られた人生を、物という形に残せるのだから。ある種の尊敬を抱いた。 )
――… 『極寒の山』 。
( 真っ先に連想したのは、己の名前である銀嶺だった。雪が積み重なり、白銀色に輝きだす高山。
弱肉強食の言葉を象徴するのに相応しい世界だ。弱き者の命を凍て尽くし、強き者の命は熱を宿らせる。
銀嶺が生まれた場所であり、存在の意義であり、仲間の墓場であった。二度と思い出せぬ過去だったが…。 )
――… 眼前に広がる、息絶えた白い大地が童心を燻らせる。
( 滅んだ故郷と重ねたが、まったくの別物だと頭では理解を成していた。
其れでも絵画に魅入られてしまい、意識が完全に飲み込まれてしまった。
同時にこの世界から銀嶺という長躯青年の存在は、確かに消えてしまった。 )
――… この事実に気付いた令嬢は悲鳴を上げた。
( 駆け付けた黒服達と係員達。動揺の色を隠せなかった。
其れは、吹き荒れる吹雪の中で青年は腕を広げて嗤っていた。
過酷な環境に浮かべるのは絶望にも等しい、筈なのに喜んでいた。 )