タイトル | : 『検死報告』 |
投稿日 | : 2008/06/17(Tue) 20:27 |
投稿者 | : 医学部職員 |
先日実施した白骨の握り締めていた紙片と、ランディ氏の論文による筆跡鑑定の結果から、
この二つの文書の著者は同一人物と判断し、以後この白骨をランディ氏と認め、呼称する。
本日実施したのはランディ氏の死体の検死である。
これは医学部学生数人による研修を兼ねており、彼らの立会いのもと
午前10時30分より、規定通りに検死および記録を開始。
白骨自体に全くと言って良いほど損傷は見られず、
この事から死亡に至るほどの打撲は無かったと断定できる。
現場検証の結果、部屋中に血液が塗られてはいたが、
返り血や流血による物が存在しなかったことから、外傷は無かったと判断。
これは私の私見あるが、密室トリックなどという非現実的なものを考えるよりは、
室内に入ったランディ氏が何らかの方法で自殺したと考えるのが妥当と思われる。
しかしながら奇異な点が認められるのも事実であり、
調査の必要――即ち、事件性は否定できないと、判断せざるを得ない。
当然であるが、人体が白骨化するよりも先に、肉体は確実に腐敗する。
その際に強烈な異臭が発生し、これは多くの死体の発見要因となっているのだが……。
あの区画に空き教室が多く老朽化していたとはいえ、人通りも存在する以上、
今まで誰も気がつかなかったというのは、はっきりと申し上げてありえない事態である。
過去の検死記録を当たっても、類似の事件は見受けられないが、
あえて似通った事例をあげるとすると、何らかの動物による捕食行為があげられる。
肉や内臓など腐敗する部位を全て喰われたのならば、当然の事だが腐敗することもなく、
異臭も発生せず、あのような白骨が残るだろうと言うのは、想像に難くない。
しかしながら、もし仮に捕食行為が行われたとした場合、
前述の通り、現場となった部屋には大量に血痕が残される筈であるし、
成人男性一人分の肉だけで二十年も生き延びる事ができる生物は、
果たしてこの地上世界に存在するのであろうか?
あの部屋から動物の死骸が見つかっていない以上、
仮にランディ氏を殺害した何者かがいるとすれば、未だ生きている筈なのだが……。
ともかく本件に関しては『死因不明』と判断せざるを得ない。
以上。
****************************************
この情報は自警団員は勿論、検死に立ち会った医学部生徒を通し、
その日の内に大学中に噂として広まっていった。
生徒達は噂を眉唾だと言って笑い飛ばしても良いし、
この噂を重要な情報と判断しても良い。
ただし自警団員はこれが真実であると受け取らざるを得ないだろう。
或いは検死を担当した職員がヤブだったと判断しても構わない。
どちらにせよ、あまり気分の良い話ではないだろうが。